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読んだ本メモ⑨ 「ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ」 佐藤克文著

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東京大学海洋研究所の教授である佐藤克文氏はバイオロギングと呼ばれる研究分野の第一人者です。本書の副題「ハイテク海洋動物学への招待」というように、野生のペンギンやアザラシにデータロガーと呼ばれるハイテク装置を装着し、得られたデータをもとに海洋動物の生態を明らかにしようという研究分野です。本書では著者がこれまでおこなってきた研究の成果を紹介しながら、建前ではない研究の実態と教科書の中のウソがテーマになっています。 タイトルの通り、「ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ」んだそうです。データロガーから得られた加速度情報によって明らかになった事実です。1950年にイギリスの筋肉生理学者ヒル博士は「幾何学的に相似な動物は、体の大きさにかかわらず、同じ速度で走り、同じ速度で泳ぐであろう」という予測を立てたそうです。半世紀以上に提唱された予測ですが、海洋動物については計測が難しいこともあり、詳細は調べられていませんでした。それを可能にしたのが、データロガーであり、日本が世界をリードしている研究分野がバイオロギングサイエンスなのです。 登場する海洋動物は、ウミガメに始まり、ペンギン、アザラシなど。データロガーで計測するものは、加速度、温度、照度、画像… 目的とする動物はなにか、何を計測したらよいのか。ウミガメの体温調節についてこういう仮説が考えられて、その仮説を検証するためにこの情報が必要だから、今度はこのセンサを装着しよう。そして、計測の結果、仮説を裏付けるデータが得られて、新しい論文を発表できた! というストーリーはあくまで建前で、研究の実態は、試行錯誤の連続、データが当初の目的には使えず、なんとか転用することで新しい発見をできた、ということもあったそうです。現代の科学は、仮説検証型と言われるように、これまでの先行研究の結果をもとに仮説を立て、それを検証するために実験を行うというのが基本です。しかし、野生動物相手のバイオロギングでは、そうも言ってられない。著者は、そうした研究の舞台裏を正直に明かしています。 そして、「教科書の中のウソ」とは? 私たちはまず小学校にはいり、その後、中学校という義務教育を終えた後、高等学校、大学へと進学する。それぞれ、学校という文字の前に、小・中・高等・大という文字が付いているが、これはそれぞれの学校で...

読んだ本メモ⑧ 「生物と無生物のあいだ」 福岡伸一著

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実はいまだに読んでいなかったこの本。いまさらながら読んでみました。 福岡伸一さんの本でも最も読まれている一冊ではないでしょうか。 「生物と無生物のあいだ」は生物学の深遠さを教えてくれる一冊ですが、本当に読みやすく書かれているというのが一番の印象です。科学者でありながら、これほど情緒ある文章を書く人はなかなかいないと思います。いつか自分もこういう本を書けるようになりたい。福岡さんのポスドク時代を振り返りながら語られる、ニューヨークやボストンの街は、自分の肌に感じるほど情景豊かです。 本書で語られている生物学の基礎知識(DNAの二重らせん、PCR、ノックアウト実験など)は、大学で生命科学系の教育を受けた私にとっては、嫌というほど授業に登場する馴染みのものでしたが、それらを見つけ出した偉大な科学者たちの人となりや、世紀の発見に潜むドラマについてはまったく知りませんでした。 DNAの二重らせんの発見者、ワトソンとクリックが論文にさりげなくこう記述しています。 この対構造が直ちに自己複製機構を示唆することに私たちが気づいていないわけではない 学術論文というものは、自分の主張を押し出し、すきのない理論武装で固めるもので、こんなあいまいな(意味するところはむしろこの方が伝わりますが)書き方をするというのは大変驚きで、ロマンを掻き立ててくれます。 ワトソンとクリックに限らず、生物学の新しい幕開けを先導した科学者たちのエピソードはどれも必見です。 ”生命とは何か”、物理学者のシュレディンガーが最後に取り組んだ問いです。あまねく物質はエントロピー最大の方向(乱雑さが増える)へ進みます。しかし、生物は一定期間、エントロピーの増大を免れ、その系の中に秩序を作ります。息をし食物を摂取し、再生を繰り返し、そこに形をとどめる、それが生きているという状態です。 つまり生命は、「現に存在する秩序がその秩序自身を維持していく能力と秩序ある現象を新たに生み出す能力をもっている」ということになる。