読んだ本メモ⑧ 「生物と無生物のあいだ」 福岡伸一著
実はいまだに読んでいなかったこの本。いまさらながら読んでみました。

福岡伸一さんの本でも最も読まれている一冊ではないでしょうか。
「生物と無生物のあいだ」は生物学の深遠さを教えてくれる一冊ですが、本当に読みやすく書かれているというのが一番の印象です。科学者でありながら、これほど情緒ある文章を書く人はなかなかいないと思います。いつか自分もこういう本を書けるようになりたい。福岡さんのポスドク時代を振り返りながら語られる、ニューヨークやボストンの街は、自分の肌に感じるほど情景豊かです。
本書で語られている生物学の基礎知識(DNAの二重らせん、PCR、ノックアウト実験など)は、大学で生命科学系の教育を受けた私にとっては、嫌というほど授業に登場する馴染みのものでしたが、それらを見つけ出した偉大な科学者たちの人となりや、世紀の発見に潜むドラマについてはまったく知りませんでした。
DNAの二重らせんの発見者、ワトソンとクリックが論文にさりげなくこう記述しています。
この対構造が直ちに自己複製機構を示唆することに私たちが気づいていないわけではない
学術論文というものは、自分の主張を押し出し、すきのない理論武装で固めるもので、こんなあいまいな(意味するところはむしろこの方が伝わりますが)書き方をするというのは大変驚きで、ロマンを掻き立ててくれます。
ワトソンとクリックに限らず、生物学の新しい幕開けを先導した科学者たちのエピソードはどれも必見です。
”生命とは何か”、物理学者のシュレディンガーが最後に取り組んだ問いです。あまねく物質はエントロピー最大の方向(乱雑さが増える)へ進みます。しかし、生物は一定期間、エントロピーの増大を免れ、その系の中に秩序を作ります。息をし食物を摂取し、再生を繰り返し、そこに形をとどめる、それが生きているという状態です。
つまり生命は、「現に存在する秩序がその秩序自身を維持していく能力と秩序ある現象を新たに生み出す能力をもっている」ということになる。
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