後頭頂葉へのtDCS(経頭蓋直流電気刺激)による空間的定位の変調
読んで面白かった論文について
今回読んだのは、原題を
"Transcranial direct current stimulation over posterior parietal cortex modulates visuospatial localization"
日本語にすると「後頭頂葉へのtDCS(経頭蓋直流電気刺激)は視覚空間的定位を変調させる」とでもなりますか。Journal of Visionに今年掲載された論文です。
http://www.journalofvision.org/content/14/9/5.short
この論文はタイトルには注意(attention)とは一言もありませんが、注意による効果を外的に発生させており、注意の神経機構を説明する一つのアイデアを提供しています。
まず、tDCSとは頭皮上から非侵襲的に大脳皮質に刺激を与える手法で、刺激の与え方によって電極下の大脳皮質の興奮性を上げ下げすることができると言われています。
そして、後頭頂葉という大脳の後頭にある部位は、視覚の処理にとても重要な役割を担っており、空間の認識や、視覚的な注意に関与しています。そして、左脳の後頭頂葉では視野の右側を、右脳の後頭頂葉は視野の左側の処理を行っています。
この研究では、tDCSによって右後頭頂葉の興奮性を下げたときに、大きく定位に変化が起きています。この時の定位の変化とは、実験参加者は左視野に見える物体の位置を、実際よりも右方向に位置していたと感じたということなります。これは、右視野への注意が促されていたときに起こる変化と同様なことが知られています。
直感的には、右への注意を促すためには、右視野を支配している左後頭頂葉の興奮性を上げるべきと考えられると思います。しかし、この実験では、左視野を支配している右後頭頂葉の興奮性を下げることで、結果的に右への注意が促されたと同等の結果を得ています。
これは、左右大脳半球間のバランスが関係しています。視覚に関わらず、半球間抑制と言われる神経活動が大脳皮質にはあることが知られています。左の大脳皮質が活動する際には、右へ抑制のシグナルが、右の大脳皮質が活動する際には、左へ抑制のシグナルが送られています。
経験的にも、左右の手を全く異なる動きを同時にするような運動(楽器の演奏など)は、練習すれば実現できることですが、困難であるとわかると思います。人は左右の活動のバランスをコントロールしながら、運動や視覚的注意の方向を制御しているのでしょう。
つまり、左視野を支配している右後頭頂葉の興奮性を下げるということによって、左後頭頂葉への半球間抑制が弱まり、左後頭頂葉が優位な状態となったというわけです。
これは、半側空間無視といわれる疾患の病態とも、深く関係しています。
半側空間無視とは、視野の片側へ注意が向けられない病気です。例えば、右頭頂葉に損傷があった場合には、視野の左側が無視されてしまいます。これは、視野が欠けているのとは違い、左側のものも見えていることは実験的に示されています。この疾患においても、右頭頂葉の損傷の結果、左頭頂葉への抑制が弱まり、常に右視野にしか注意を向けられなくなっているというメカニズムが背景には潜んでいるのです。
ということで、この研究では、空間的注意の左右差を外的に変化させることができることを示しており、半球間抑制という神経メカニズムが注意の左右差の背景にあることを明らかにしました。
このメカニズムは半側空間無視というよく知られた病態ととてもマッチしており、また外的に変調を加えるという実験手法をとることで因果関係が明確に示されている研究です。
今回読んだのは、原題を
"Transcranial direct current stimulation over posterior parietal cortex modulates visuospatial localization"
日本語にすると「後頭頂葉へのtDCS(経頭蓋直流電気刺激)は視覚空間的定位を変調させる」とでもなりますか。Journal of Visionに今年掲載された論文です。
http://www.journalofvision.org/content/14/9/5.short
この論文はタイトルには注意(attention)とは一言もありませんが、注意による効果を外的に発生させており、注意の神経機構を説明する一つのアイデアを提供しています。
まず、tDCSとは頭皮上から非侵襲的に大脳皮質に刺激を与える手法で、刺激の与え方によって電極下の大脳皮質の興奮性を上げ下げすることができると言われています。
そして、後頭頂葉という大脳の後頭にある部位は、視覚の処理にとても重要な役割を担っており、空間の認識や、視覚的な注意に関与しています。そして、左脳の後頭頂葉では視野の右側を、右脳の後頭頂葉は視野の左側の処理を行っています。
この研究では、tDCSによって右後頭頂葉の興奮性を下げたときに、大きく定位に変化が起きています。この時の定位の変化とは、実験参加者は左視野に見える物体の位置を、実際よりも右方向に位置していたと感じたということなります。これは、右視野への注意が促されていたときに起こる変化と同様なことが知られています。
直感的には、右への注意を促すためには、右視野を支配している左後頭頂葉の興奮性を上げるべきと考えられると思います。しかし、この実験では、左視野を支配している右後頭頂葉の興奮性を下げることで、結果的に右への注意が促されたと同等の結果を得ています。
これは、左右大脳半球間のバランスが関係しています。視覚に関わらず、半球間抑制と言われる神経活動が大脳皮質にはあることが知られています。左の大脳皮質が活動する際には、右へ抑制のシグナルが、右の大脳皮質が活動する際には、左へ抑制のシグナルが送られています。
経験的にも、左右の手を全く異なる動きを同時にするような運動(楽器の演奏など)は、練習すれば実現できることですが、困難であるとわかると思います。人は左右の活動のバランスをコントロールしながら、運動や視覚的注意の方向を制御しているのでしょう。
つまり、左視野を支配している右後頭頂葉の興奮性を下げるということによって、左後頭頂葉への半球間抑制が弱まり、左後頭頂葉が優位な状態となったというわけです。
これは、半側空間無視といわれる疾患の病態とも、深く関係しています。
半側空間無視とは、視野の片側へ注意が向けられない病気です。例えば、右頭頂葉に損傷があった場合には、視野の左側が無視されてしまいます。これは、視野が欠けているのとは違い、左側のものも見えていることは実験的に示されています。この疾患においても、右頭頂葉の損傷の結果、左頭頂葉への抑制が弱まり、常に右視野にしか注意を向けられなくなっているというメカニズムが背景には潜んでいるのです。
ということで、この研究では、空間的注意の左右差を外的に変化させることができることを示しており、半球間抑制という神経メカニズムが注意の左右差の背景にあることを明らかにしました。
このメカニズムは半側空間無視というよく知られた病態ととてもマッチしており、また外的に変調を加えるという実験手法をとることで因果関係が明確に示されている研究です。
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