ニューロンの数に反比例する必要睡眠時間 -More neurons mean less need for sleep-

ニューロンの数に反比例する必要睡眠時間 -More neurons mean less need for sleep-
サイエンス誌の記事にこんなのがありました。他誌からのピックアップ記事です。
http://www.sciencemag.org/content/350/6264/1052.1.full?et_rid=51968542&et_cid=131075



睡眠というのは動物にとって必要不可欠です。しかし、種によって一日の必要睡眠時間は大きく異なっています。コウモリは一日に20時間も眠るのに対して、ゾウやキリンは3,4時間ほどしか眠らないことが知られています(Zepelin & Rechtschaffen, Brain Behav. Evol 1974; Cappelini et al., Evolution, 2008)。ネコは12,13時間、イヌで10時間程度、ヒトは7,8時間でしょうから哺乳類の体のサイズと睡眠時間にはどうやら関連がありそうですね。
体が大きい動物ほどより多くのエネルギーを必要とするため、食事により長く時間をかける必要があります。そのため、大型の動物ほど活動時間を増やす必要があり、その反面睡眠時間は減るというのが一般的な解釈です。低カロリーの植物を主食とする草食動物ほど、その傾向が強いようです(ゾウやキリンの睡眠時間が極度に少ない理由)。しかし、この説明では片手落ちです。自然選択の結果、なぜそのように進化したのか説明が不十分ですし、メカニズムについてはなんら言及できていません。

そもそも、睡眠というのはなぜ必要なのでしょうか?
学習の促進、記憶の定着など、睡眠というのは脳の機能において多大な利益をもたらしてくれることはよく知られています(Walker & Stickgold, Neuron, 2004; Diekelmann & Born, Nat. Rev. Neurosci., 2010; Gilestro et al., Science, 2009)。そして、最近の研究成果から日中に蓄積した代謝産物を一掃するのが睡眠の大事な役割であることがわかりました(Xie et al., Science, 2013)。代謝産物には、睡眠を誘導する物質もあるので、脳の活動により溜まった代謝産物によって睡眠が誘導され、睡眠によってそれらの物質が洗い流されるという具合ですね。つまり、代謝産物の一掃に必要な時間こそが必要睡眠時間にあたるわけです。そしてこの時間は、脳の神経細胞の密度と関係しているようです。

Herculano-Houzelはこの点に着目し、24種の哺乳類において睡眠時間と脳のサイズ、神経細胞の密度などを比較しています。その結果、脳のサイズや神経細胞数と睡眠時間との間に負の相関が、神経細胞の密度と睡眠時間との間には正の相関がみとめられました。
基本的に生物は生存競争の歴史から大きく強く(捕食されにくくなるため)なるように進化してきました。また、食事の時間を増やすことも進化の選択圧として働くでしょう。食事時間の増加つまり睡眠時間の減少は、脳および体の大型化によって可能となった。そして、その裏のメカニズムには代謝産物が関わっているというわけです。

この研究では種間で検討するだけでなく、産後のラットの発達段階についても検討を行っており、つまり系統発生および個体発生の両面から、ニューロン数と睡眠時間との関係を探るということをおこなっています。しかも、そのメカニズムにも言及しており、生命現象における”なぜ”に多方面から回答するというすごい研究だと思います。


原著論文
Suzana Herculano-Houzel, Decreasing sleep requirement with increasing numbers of neurons as a driver for bigger brains and bodies in mammalian evolution, Proc. R. Soc. London Ser. B 282, 1816 (2015).

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