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読んだ本メモ㉑「したたかな生命」北野宏明、竹内薫著 ダイヤモンド社

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「 したたかな生命 」もう10年くらい前に出た本ですが、読んでみました。基本的な生命科学の考え方・生命の捉え方として近年の潮流とも言える「システムバイオロジー」という分野があります。 著者の北野宏明氏は「システムバイオロジー」の第一人者。生命をシステムとして捉えることで、見えてくるロバストネスが本書のテーマ。 ロバストネスとは、、 「頑強性」なんて訳されたりもしますが、頑なに強いという訳語はちょっと不適切。 ただ「強い」のではなく、「したたか」。 固いものは、壊れにくいようでいて案外脆い。石の建築物は1000年もつかもしれないが、地震にはきっと耐えられない(根拠はないです…)。法隆寺の五重塔のような、力をいなし、受け流すような、柔よく剛を制す、「ロバストネス」とはそんなイメージでしょうか。 どんなシステム(建物のようなハードウェアでもソフトウェアでも)も、なにかにロバストであれば、どこかに弱点「フラジリティ」ができるそうです。そんなロバストネスとフラジリティのトレードオフは避けれられない。制御工学の考え方から、生命を捉えなおすのが「システムバイオロジー」の考え方です。 DNAの発見に始まる、20世紀後半のバイオロジーの飛躍はめざましいものがあったでしょう。生命を形作る、様々な部品(タンパク質など)が明らかにされ、生命とは何たるかがつまびらかになった、かに思われました。しかし、いくら部品がわかっても、生命を理解したことにはなりませんでした。部品であるタンパク質を集めてひとつの袋に入れたところで、それは生命ではありません。そこで、さまざまなタンパク質が織りなす生命の持つ動的な(ダイナミックな)振る舞い(つまり、生きているという状態?)をシステムとして扱う「システムバイオロジー」の登場とあいなるわけです。 本書の冒頭でも、自動車を例にシステムとしての理解とはどういうものか、詳解しています。 理解のレベルには4つ(「システム構造理解」、「システムダイナミクス理解」、「システム制御理解」、「システム設計理解」)あります。前の二つは、ありのままを受け入れる受け身の理解。それに対して、後の二つは能動的に関わる理解です。 自動車でいうと、図面を見てエンジンや車体がどうしてそのような設計になっているのか理解するのが、「システム構造理解」です。そして、実...

正月登山 南アルプス・伝付峠〜悪沢岳

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今回の年越しも、昨年の甲斐駒ヶ岳に続き、南アルプスへ。 ただ、今年は頑張って3泊4日の行程で。雪山で3泊は学生の頃以来かもしれない。 山域:南アルプス・悪沢岳 ルート:新倉〜伝付峠〜二軒小屋〜千枚岳〜悪沢岳 往復 日程:2017年12月29日〜2018年1月1日(前夜泊3泊4日) パーティ:6人 装備:雪山一般 + ヘルメット、30mハーフロープ1本 カメラ:GoPro Hero3 12/28:東京〜新倉(林道の奥までいって、発電所のとこに車停められる) 今回は二台に分かれて出発、談合坂で落ち合う。22時頃には新倉ついたっけ。新倉からの道はあんまりよくありません。自分は運転していないけど、、、 途中ヘリポートがあってその付近に停車できるような情報があったけど、それがどこなのかよくわからず、林道終点の広河原までいったら、発電所のところが広々として停車できた。凍結やら雪やらの恐れもあるので、この時期以降はここまで入るのはよろしくないかも。 12/29:登山口〜伝付峠〜二軒小屋(行動時間、約8時間) 朝来たのかな?車二台が現れる。8人のパーティだった。我々と同じルートらしい。 まずは沢沿いの道。地形図にある旧登山道ではなく、真西に小沢に入り、八丁峠という小さな峠を超えて、沢筋に降り立ち旧道に合流する。八丁峠で、先に出発していた8人パーティに追いついた。 伝付までの登山道はそんなにしっかり整備されているってわけではない。迷ったりはしないが、時折仕事道らしき踏み跡と区別がつきにくい。伝付峠は標高2000mあり、今日は1000m超アップ。1700mくらいから雪がつき始める。6時過ぎに出て、昼くらいには伝付到着。伝付につくと西からの風を受けるので結構寒い。 その後、ひたすら下り14時頃には二軒小屋。畳張りの立派な冬期小屋が利用できる。標高も1400mまで降りたので、気温もそこまで低くない。大晦日もここで過ごすことになるだろう。 この日二軒小屋は、僕ら6人と、8人パーティ、さらに単独の人と総勢15名の賑わいとなった。 12/30:二軒小屋〜マンノー沢頭〜千枚小屋(約10時間) 5時過ぎまだ暗いうちに出発。今日はラッセルだろうし、体力的には核心か。 吊り橋を渡ると一気に登る。ひたすらのぼる。踏み跡がある。そのおかげで割と順調に登...

数字の重要性と危うさ~2017年に話題になった研究から考える~

2017年ももうすぐ終わり。みなさんにとって今年はどんな一年でしたか? 科学研究においては、イギリスのオルトメトリク社が この一年で最も話題になった研究Top100 というのを先日発表しました。 そして、このランキングの第三位に日本人研究者の論文が選ばれました! おめでとうございます!! どういった研究かというと、、 「 女性医師の方が男性医師よりも患者の死亡率や再入院率が低い 」 つまり、誤解を恐れずにいうなれば、 女性医師の方が男性医師より”平均的に”腕がいい 、ということ。 まず、先に断わっておくと、この研究はアメリカでおこなわれたもので、アメリカの医師のデータに基づいています。なので、そっくり日本に当てはまるものとは限りません。 どれくらい、死亡率・再入院率が違うかというと 30日死亡率が、男性医師11.5%に対して、女性医師は11.1% 30日再入院率は、男性医師15.6%に対して、女性医師は15.0% それぞれ、0.4%と0.6%違うという結果が得られたようです。 小さくて大きな0.4%の違い どうでしょう?この違い。大きな違いと感じましたか?それとも小さいと思いますか? 個人的には、0.4%程度の違い大したことないんじゃない?なんて最初思いました。 しかし、どうやらこの違いなかなかに大きな違いのようです。 詳しくは、 研究者ご本人のブログ をご覧になった方がいいかと思いますが、この違いどれくらいか、もう少し実感しやすい数字にしましょう。 もし、アメリカ全土の男性医師(ここでは内科医)が女性と同水準の医療の水準になれば、なんと32,000人もの患者が亡くならずに済む計算になります。 そっくりそのまま、日本に当てはめても、1万人くらいの患者が救われる推定なんだそうです。 こう聞くと、大きな違いだと考えるようになりませんか? 同じ情報でも、数字の見せ方によってここまで、伝わり方が違うんですね! 代わりの指標 そして、もう一つ気になったことがあります。 そもそも、なぜこの論文がランクインしたのでしょう? 素晴らしい研究であることはもちろんなのですが、このランキングはどうやって決められたんでしょう?? 近年、論文の重要性を示す指標として、オルトメトリクス(Altmetrics)というも...

読んだ本メモ⑳ 「ゼロから作るDeep Learning」 斎藤康毅著 オライリージャパン

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科学読み物、小説ばかりでなくてこういうものも読んでいる。読んでいるというか、プログラミングのスキルアップのときの教科書や辞書的な使い方として、オライリージャパンの書籍はよく利用しているのだが、今回読んだものは、昨今注目の的であるディープラーニングの理論をおおざっぱに理解する上で非常にためになったので、ここで取り上げた。 本書は、Pythonを使いながら、Deep Learningを実装し、その理論を学ぶことを目的としている。Deep Learningを学ぼうという人であればもちろん、Pythonという言語のことはご存じだろう。本書はPython初学者のみならず、プログラミングに馴れていない方でも十分にキャッチアップできる内容だと思う(個人的な感想です。Python入門に1章分紙面が割かれている)。 また、実装をすることでDeep Learningの理論の理解がより一層進むのは確実だが、Deep Learningの基本的な理論を知りたいだけであれば、各章のおおむね前半部分にて記載された、アルゴリズムや数学的背景を追うだけでも十分だと感じた。 実装、理論の理解いずれの目的にしても、初学者でも手に取りやすい入門書である一歩言うで、物足りなさも多少は覚えるが、入口としては適した一冊だろう。今後のためにと、Deep Learningの基本理論について本書の流れに沿って用語解説の形で以下にまとめた。 パーセプトロン: アルゴリズムの一つ。複数の信号を入力として受け取り、一つの信号を出力する。ノード(ニューロンとも呼ばれる)とそれらを結ぶエッジによって構成される。各エッジには 「重み」 が、ノードには 「バイアス」 (出力をするかどうかのしきい値)がパラメータとして設定でき、パラメータによってANDやORゲートといた論理回路を構成できる。さらに、それらの組み合わせ(例えば、二層にすることでXORゲートが可能)によってより複雑な判別も可能となる。 ニューラルネットワーク: 入力層、中間層、出力層で構成される多層のパーセプトロンであるが、出力の決定にパーセプトロンのように定数のバイアスを用いるのではなく、 活性化関数 を用いる。正確には、パーセプトロン(もしくは単純パーセプトロン)では活性化関数に「ステップ関数」を採用していると言え、ニューラルネットワークでは、...

AIの発展と脳科学

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今月のサイエンス誌のニュース記事はAIだらけだった。そのなかの一つ「The AI detectives(AIの探偵)」はAIの発展とその問題点について触れている( Paul Voosen, Science  07 Jul 2017 )。 最近のAIの発展の背景には、深層学習(Deep Learning)という機械学習の手法がある。 機械学習というのは、AIの根底にある技術のことで、人間が学習によって培う判断をコンピュータにさせるための手法一般のことだ。 そして深層学習では、多層構造のニューラルネットワークというものを用いた機械学習手法の一つだ。 人間の大脳の情報処理構造を参考に、情報の受け渡しをおこなう多数のニューロンによって構成されたネットワークをコンピュータ上に設計することで、高度な機械学習が実現されている。 ここで機械学習について概説したい。例えば、画像からイヌとネコを判別するようなシステムについて考えてみよう。 イヌが映っている写真、ネコが移っている写真、このような画像データの一つ一つにラベル(「イヌ」、「ネコ」というふうに)をつけたリストを機械学習のシステムに与える。するとシステムは、画像の特徴を分析し、「イヌ」の概念、「ネコ」の概念のようなものが形成される(判別器という)。すると、新しく画像を与えたときには、形成された判別器にしたがって、それが「イヌ」なのか、「ネコ」なのか判別できるというわけだ。判別の質は、与えたデータ量に依存することとなる。 もちろん、イヌとネコを見分けるだけでなく、このサイエンス誌の記事内で触れられているように、シマウマ、消防車、シートベルトなどありとあらゆる画像データを与えることで、様々な物体を認識できるように訓練できる。 ここで、個々のニューロンにクローズアップして、そのニューロンが何に反応するのか、確認してみよう。すると、あるニューロンはどうやら「顔の輪郭」に反応するようになったことが分かる。どんなサイズでどんな色であっても(おそらく人間の顔じゃなくても?)、顔らしき輪郭をとらえれば、そのニューロンは反応するのだ。 しかし、不思議なことに、誰も「顔」を認識するようにこのシステムを訓練していないのだ。「人間」というラベルづけさえ行っていないという。 にもかかわらず、この判別機は「顔」の概念...

入力インピーダンスってなに?

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前の投稿に引き続き、基本をおさらい。 脳波でも筋電でも、はかるものは電位差(電圧つまり単位はV(ボルト))だ。 生体内の神経細胞が発する電位差は非常に小さい! 脳波なら、数十マイクロボルト。 筋電は発揮している力によるけれど、数百マイクロボルト程度である。 そんな微弱な信号を計測するために、脳波(筋電)計がある! 皮膚上に貼付した電極間の電位差を、アンプによって増幅し、サンプリングする機器だ。 計測工学の超基礎だけれど、アンプには入力インピーダンスというものがある。 基本的には、入力インピーダンスは高いほど良い!とされている。 さて、入力インピーダンスってなんだろう? インピーダンス、日本語で言うと抵抗のことである。単位はΩ(オーム)だ。 脳波計測のときにはよく、「インピーダンス(抵抗)を落としましょう」と言ったりする。インピーダンスを落とさないと、ノイズが大きくちゃんと脳波を計測できない。 このインピーダンスは、正確には「接触インピーダンス」という。 入力インピーダンス、そして接触インピーダンス。 それぞれいったいどんな抵抗なんだろう? 抵抗はギザギザで書く派です(笑) この回路は、電極を設置した頭皮上を簡略化したものと思ってほしい。 接触インピーダンス(Zs)とは、皮膚の角質などの組織の持っている抵抗値を示している。一方で、入力インピーダンス(Zi)は脳波計内部にある抵抗だ。 知りたい脳波(電位差)はEとする。そして、アンプに入る電位差はVである。理想は、V=Eとなることだ。しかし、接触インピーダンスがそれを許してくれない。 この回路から、導かれるVは式の通りとなる(分圧の法則だ!)。 この式が意味するところを考えよう。 もし、接触インピーダンスと入力インピーダンスが同じだったら、V=E/2となってしまう。つまり、計測できる電圧は半減することとなる。Zi/(Zs+Zi)を1に近づけることが出来れば、VはEに近づく。そのためには、Ziを大きく(高いほど良い!とはこういうことか!)、Zsを小さくすることである。 入力インピーダンスはアンプの性能次第だ。 一方で接触インピーダンスは、計測するときに皮膚の角質を落としたりといった前処理によって、下げることができる。 ここから余談......

頭皮脳波はなにを見ている?

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最近、いろいろと基本をおさらいしていたので、ここでまとめておこうと思う。 人の脳活動を計測する手法はいろいろある。 非侵襲なものだと、fMRI、PET、EEG、MEG、NIRS… 侵襲的なものだと、ECoG、LFPなど fMRI、PET、NIRSというのは神経活動にともなう脳血流を見る手法で、 それ以外の手法は、神経の電気的な活動を直接計測している。 ここでは、EEG(頭皮脳波)などの神経の電気的な活動の測定法について考える。 細胞外記録とは 神経細胞は、シナプスを介して、他の神経細胞と連結している。 神経活動といっているのは、神経の発火や膜電位の変化のことだけど、 もちろん、神経細胞に電極を刺して計る(細胞内記録)のように、膜電位を直接記録することは生体ではできない。人を対象とした計測で用いる手法は程度差こそあれ、細胞外記録になる。 ECoG、 LFP 脳表に設置した電極から計測するECoG(皮質脳波)や、脳に刺入した電極から計測するLFP(局所フィールド電位)は、局所的ではあるものの時間分解能も空間分解能も高い信号が得られる。 しかし、てんかんやパーキンソン病などの治療のために、電極を外科手術によって留置した患者さんの協力を得られない限り、計測はできない。 EEG そこで、一般健常者でも患者さんでも、安価(比較的に!)な設備で神経活動を測定できる手法はEEG(頭皮脳波、Electroencephalogram)である。 EEGは頭皮に電極を貼付し、その電極から微弱な電位変化を記録する手法だ。 どれくらい微弱かというと、せいぜい数十マイクロボルト程度。商用の交流電源は100Vなので、だいたいそれの1000万分の1だ。 というのも、脳とEEG電極は、頭皮、頭蓋、髄膜などの組織によって隔てられている。 EEGによる神経活動の計測は、 例えるなら、東京ドームの外から観客の拍手や歓声を聞くようなものだ。 個々の観客がばらばらに手を叩いても、外からはわからない。 ホームランでも打てば、観客は一斉に歓声をあげるので、外からもわかるだろう。 観客(神経細胞)が一斉に叫べば、外の人(脳波計測)にも聞こえる これはつまり、神経が一斉に(同期して)発火すれば、EEGでも計測できるということだ。 正確に...